Petite Adventure Filmsプチ・アドベンチャー・フィルムズ

ムービング104号(2024年10月発行)書評執筆

インティマシー・コーディネーター 正義の味方じゃないけれど

西山 ももこ 著
論創社 2024年初版 1,800円(税別)

 

「インティマシー・コーディネーター(IC)」は、#MeToo運動の流れを受けてアメリカで誕生した、まだ新しい職業だ。昨年末時点で、日本には著者を含めまだ二人しかいない。

 

著者の西山さんは、高校生の時アイルランドに留学し、その後もヨーロッパに長く暮らした。帰国後はテレビ番組の制作会社に就職し、アフリカ取材を専門とするロケーション・コーディネーターとして働き、現在もICと並行しフリーランスで仕事を継続している。

 

西山さんは、その仕事を通じて、日本メディアのアフリカに対する偏見やステレオタイプに満ちた番組作りに、疑問を感じたという。作品が面白ければ、何をしても許されるのか? その疑問が、その後ICとして働く素地にもなっている。

 

ICの仕事は、まず脚本を読み込み、ICが必要なシーンを把握すること。脚本によっては、ただ「一夜を共にする」としか書いていない場合もある。演出側が性描写まで想定しているのか。具体的な内容や演出意図を聞き、演者に伝える。その通りに演じるには抵抗がある場合、代案を聞きだしたりもする。

 

今後、センシティブなシーンの撮影に欠かせなくなるであろうICだが、現場にICを入れさえすれば、その作品はクリーンという免罪符になるわけではない。そもそも、映像制作の現場はいまだにパワハラ、長時間労働、ジェンダー差別などが横行している。性描写だけでなく、業界全体の意識を変えていく必要性がある。本書を読み、ICはその重要な第一歩であると感じた。

 

ドキュメンタリー映画監督 早川 由美子

 

インティマシー(intimacy)
英語で「親密さ」という意味。映画やドラマなどの制作現場で、日本では「濡れ場」「ベッドシーン」と呼ばれてきたシーンや、演者が体を露出する場面を「インティマシー・シーン」と総称する。本書の「インティマシー・コーディネーター」は、これらのシーンについて演出側と演者側のあいだに入り、双方の意向を調整する専門スタッフである。