今から10年ほど前、私の初監督作『ブライアンと仲間たち』を、フリーターユニオン福岡で上映していただきました。その時に、福岡を拠点として活動するイラストレーターの、いのうえしんぢさんと知り合いました。
いのうえさんより、本の出版記念イベントを東京で行うと連絡を頂き、お茶の水のブックカフェ・ESPACE BIBLIOへ向かいました。
イベントの案内を、ESPACE BIBLIOのホームページより引用します。
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第175回 ESPACE BIBLIO 文明講座
「デモってラブレター!?」(樹花舎)刊行記念
デモの自由を返せ!
裁判と路上から
古瀬かなこ×いのうえしんぢ×小倉利丸 TALK SHOW
2011年5月、福岡で行われた脱原発デモ。このデモ行進に、警察からの妨害があった。届けを出していたにもかかわらず、警察はデモ隊を公園から出さなかったのだ。「何もしないでいたら、これから自由にデモもできなくなる…」、そう考えた主宰者である市民が選んだのは「裁判」という手法。しかも、弁護士をつけない「本人訴訟」だった。国家権力を相手にケンカ。勝てる保証なんてない。だけど、そのままやり過ごすことだけはしたくなかった。黙っていれば、いつのまにか権力側に都合のいい仕組みが作られてしまう現代だからこそ、新しいスタイルによる社会や政治に対する異議申し立てに関心のある幅広い層の方々のご参加をお待ちしています。
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発売されたばかりの本のタイトルは、『デモってラブレター!? 福岡サウンドデモ本人訴訟顛末記』。福岡サウンドデモにどのような妨害が入ったのか、裁判、しかも本人訴訟でたたかうという手段を選んだのはなぜなのか、裁判は実際にどのように進み、どんな結末を迎えたのか…。本著では、福岡サウンドデモ裁判の詳細にくわえ、本人訴訟でたたかってきた先人たちの事例や、福岡で行われているユニークなデモ、パフォーマンスのあれこれも紹介されています。
原告としてたたかった、いのうえしんぢさん(向かって左)と古瀬かなこさん(同右)。
まず事件の発端となった、2011年5月8日のサウンドデモについて説明がありました。
最初から「裁判をやってやろうじゃないか!」と意気込んでいたのではなく、最終的に行きついた手段が「裁判」だったのでした。
裁判と言えば、真っ先に思い浮かぶのが「お金がかかる」ということではないでしょうか? 実際、いのうえさんたちも、デモへの不当な介入をこのままにしてはいけないと思いつつ、弁護士に依頼し訴訟を起こすのはお金がかかるだろうな…と思っていたそうです。
しかし、裁判には弁護士をつけない「本人訴訟」というやり方もあると聞き、ならば本人訴訟で裁判を起こしてみよう!ということになったのだそうです。
トークイベントでは、時折「裁判クイズ」が(^^)
いのうえさん的には、本人訴訟をするというのは、単に「お金(弁護士費用)がかからない」というメリットだけでなく、「自分たちでやる」=「DIYの精神である」ということも、大きなポイントだったそうです。
DIYは、言わずと知れた「パンク」の精神でもあります。こちらの写真、なんと10代のころのいのうえさん… めっちゃパンクスじゃないですか!!
警察相手の国賠訴訟では、その勝率は6%しかないそうです。私もこれまで、国や大企業相手の裁判を傍聴し、取材もしてきましたが、国側がどんなにやる気のない書面や、でたらめな証言をしても、判決では結局国が勝つ…という理不尽な裁判をいくつも見てきました。
しかし!
福岡サウンドデモ裁判は、1審、2審共に、サウンドデモ原告団勝訴!!!
これは本当にすごいことではないかと思うのですが、判決日、取材に来たマスメディアはゼロ。事前にプレスリリースや記者レクまでやったにも関わらず、取り上げられなかったそうです。
レイバーネットのホームページには、いのうえさんの報告が掲載されています。
マスメディアでは取り上げられなかったものの、高校生の社会科の教科書には、サウンドデモ裁判勝訴のことが掲載されているそうです!
この裁判を起こしたきっかけのひとつが、「次世代のためにも」という理由。2011年5月のサウンドデモでは、DJが荷台に乗ってプレイすることが妨害されたわけですが、現在では、その荷台の上で、大勢でのダンスや寸劇まで行われているそうです。裁判を含め、地道な粘り強い取り組みが、表現の自由を守っているのだと思います。
その他、本人訴訟の歴史についても紹介がありました。
豊前環境権訴訟(1973年)。裁判所の建物外にいる人たちへ、いち早く判決結果を知らせる「旗だし」。通常なら「不当判決!」などの文言が書かれていますが、なんとこちらの旗だしは「アハハハ…敗けた敗けた」!
Tシャツ訴訟(1987年)。
裁判や、福岡で行われている様々な工夫を凝らしたデモ&イベントのお話を聞きながら、福岡で活動される方々の「せっかくなら楽しんでしまおう!」とでもいうべき精神を感じていました。
反原発路上コント。
「武装」より「女装」!
世界平和のために女装するいのうえさん(^^)
輝け!「プロ市民」人権賞。(私の周りにも「プロ市民」が沢山いるのですが、残念ながら今年の応募・推薦は、もう締め切ったそうです)。
「裁判闘争」なんて聞くと、たいがいは長くて辛い道のりのように思えてしまいますが、いのうえさんたちのやり方は、DIYで経験を積み、権力の横暴をユーモアたっぷりの皮肉で茶化し、裁判自体をイベントにすることで、裁判に対するハードルを下げる(=世の中に対して、おかしいと思うことにはおかしいと言う)ように働きかけているように思います。
本人訴訟の歴史のところで、何かの裁判を起こそうとする人たちに対してよく言われるのが、「へたな判決が出てしまったら、他の人たちや運動に悪影響が出る」という忠告だと聞きました。
…うわあ、これ、すごいパワーワードだなぁ…
勝てる見込みは低いかもしれない。確かに、何らかの判決が出れば、その判決は以降の裁判の基準にもなる。
でもだからと言って、その当事者が今被っている不利益や、訴えたいという気持ちを、なぜ他者ががまんしろとか辞めろなどと、言うことができるのでしょうか? しかも、「周りに迷惑がかかるからやめろ」といった、嫌らしい言い回しで!
裁判を起こしたいと本人たちが思ったら、裁判を起こせる。これもまた、大事なことではないかと思います!
イベントの後半は、「デモってラブレター!?」に監修者として加わった、小倉利丸さんも交えてのトークでした。
小倉さんは、現在展示中止となっている、あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」の、実行委員メンバーでもあります。
トリエンナーレの会期は10月14日までですから、あと1か月しかありません。展示の再開を求め、これからどのような手段がとりうるか、といったお話をされました。
このトークイベントの翌日、9月13日に、実行委員会は企画展の再開を求め、名古屋地裁に仮処分の申請をしました(記事はこちら)。
名古屋と東京で、この週末に実行委員会主催の集会が行われます。
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「〈壁に橋を〉プロジェクト 今こそ集会」
①2019年9月15日(日)14:00〜 (名古屋市東別院会館蓮・橘 地下鉄名城線「東別院駅」4番出口より西に徒歩約5分)
②2019年9月17日(火)18:30〜 (文京区民センター2A会議室 地下鉄春日駅2分 後楽園駅5分)
出席者:表現の不自由展実行委員会(アライ=ヒロユキ 岩崎貞明 岡本有佳 小倉利丸 永田浩三)
中谷祐二弁護団団長(9/15・9/17)利春煕弁護士(9/17)
資料代:1,000円
問合せ:info@fujiyu.net
主 催:表現の不自由展実行委員会
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全国集会も予定されています。
「『表現の不自由展 その後』の再開をもとめる全国集会inなごや」
と き:2019年9月22日(日)集会開始:午後2時 デモ出発:午後3時
ところ:名古屋市・若宮公園ミニスポーツ広場(地下鉄名城線「矢場町」下車東に3分
主 催:「表現の不自由展・その後」の再開をもとめる愛知県民の会
E-mail:resumetheexhibition@gmail.com
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展示の中止、政治家の介入、芸術への公金の投入を疑問視する声など、表現の自由は加速度的に「不自由」へと向かっているかのようです。
声をあげなければ、あっという間に何もできない世の中になりそうです。
それぞれが、それぞれの場所で、出来ることをする。
…楽しみながら、DIYの精神で(^^)!!
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著者のお二人と。
以上、「デモってラブレター!?」刊行記念イベントのレポートでした♪