高島平団地で「高島平ドキュメンタリー映画を見る会」を主催する、山名泉さんよりご案内を頂いて、今日は御茶ノ水のアートギャラリー884(ハヤシ)に、「精神医療の”夜明け前”を問う」という企画展示&映画を観に行きました。
イベントの案内チラシ(スマホ等の画面拡大で、画像は拡大できます)
アートギャラリー884外観
映画上映の前に、展示をじっくり見たいと思い、早めに行きました。
パネル展「精神医療の歴史と私宅監置」(監修:橋本明・愛知県立大学教授)
精神障害者を、自宅の裏座や敷地内の小屋などに隔離する「私宅監置」は、1900年に制定された「精神病者監護法」に基づく措置でした。
法律には、精神疾患の「治療」という観点はなく、「監護」「治安維持」という発想で私宅監置が行われ、1950年に廃止されるまで継続していました。
法律が廃止された以降も、日本各地で不法な私宅監置が行われていたことを示すパネル。
(しかし、これは「過去の出来事」では決してありません。新聞でも大きく報道されたように、2017年には寝屋川市で監禁死亡事件、2018年には兵庫県三田市で監禁事件が発覚しています。現在に至るまで、精神障害者は誤解と偏見、差別の対象となり、家族も苦しみと犠牲を強いられている、ということです。また、現在は「私宅監置」は廃止されていますが、一方で病院に長期入院させる、いわば「病院監置」の問題もありますし、病院での拘束具による身体拘束も、近年再び増えてきているのだとか。この問題は過去のことではなく、現在の私たちにも問われているといえます)
この「私宅監置」について、今から100年も前に、全国各地の”座敷牢”を詳細に調査し、その問題を世に問いかけた呉秀三・東大医学部教授。
彼は、「我が国十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸の外に、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし。精神病者の救済・保護は実に人道問題にして、我が国目下の急務と謂はざるべからず」(1918年)と、精神病者に対する国の法律を厳しく批判しました。
会場には、呉秀三先生の肖像写真と、「精神病患者私宅監置の実況及ビ其ノ統計的観察」、府立巣鴨病院で実際に使用されていた拘束具も展示されています。
内務省の報告書原本は、国立国会図書館とこちらの、計2点しか現存しないとのこと!
「精神病患者私宅監置の実況及ビ其ノ統計的観察」復刻版の中身。
「私宅監置」されている人の多くは、衣服を何も身に付けていない人も。畳1~2畳ほどで、天井が低く、立つこともできず、拘束具で歩くこともできず、食事は小さな窓から与えられるのみで、排泄も小屋の中で行う・・・と、劣悪な環境のため、やせ細り、動けなくなった人たちの様子が詳細に綴られています。
「私宅監置」は、文字通り各家庭に任されるため、監置小屋の規模や閉じ込められた人の扱いは様々で、豚小屋の中に家畜同然に閉じ込められている人もいれば、広い場所で食事が満足に与えられていた人もいたそうです。中には、息子と孫を私宅監置せざるを得ず、彼らに十分な食事を与えるために、家の資産を食い潰し、自身は粗末な小屋で暮らしていたという男性も。
様々な私宅監置の実態を目の当たりにして、呉教授は、私宅監置をした家族を責めることはせず、責められるべきは国家である、との思いを持っていました。
会場の左半分は、「沖縄県精神保健福祉会連合会」が制作した写真展となっていました。
写真展~戦後の私宅監置の過酷な実態をリアルに伝える問いかけ~「闇から光へ 沖縄の精神保健のあゆみ」
なぜ、沖縄の私宅監置が大きく取り上げられているのでしょうか? そこには、沖縄特有の事情がありました。
前述したように、1950年に”本土”では私宅監置制度が廃止されましたが、アメリカの占領下だった沖縄では、1972年の本土復帰まで認められていたのです・・・。
大きく引き伸ばされた、沖縄の私宅監置の様子を伝える写真。
興味深い数値を示すデータがありました。1966年の、国による「沖縄における精神衛生実態調査」によれば、沖縄の精神疾患の率は、本土の二倍以上となっているのです。
沖縄戦という壮絶な経験をした住民や兵士は、戦後、ひどいPTSDに苦しみました。戦後に精神疾患を発症した人たちの中には、「怖くて眠れない」「兵士に殺される」と言い出す人も多く、集落の人たちから「あの人には殺された兵士の霊が乗り移って、人を刺す」とされ、ケアをされることなく私宅監置にされてしまった事例もあるそうです。
現在では、かつての監置小屋はほとんど壊されてしまいましたが、沖縄本島の北部に1箇所、現存する監置小屋があるそうです。
今、沖縄県精神保健福祉会連合会では、この現存する私宅監置施設を、遺構として保存するための活動を行っています。
以下は、沖縄県精神保健福祉会連合会のメッセージ。
会場で頂いた、沖縄県精神保健福祉会連合会の、写真展リーフレット。
ひと通り展示を見たあと、16:30からはドキュメンタリー映画「夜明け前のうた ー 沖縄の私宅監置」(20分)を観ました。以前、NHKハートネットTVでこの問題を取り上げ、2018年の貧困ジャーナリズム賞を受賞した、フリーのディレクター、原義和さんの作品です。
なんと、3月21日に完成したばかりの、初公開作品!
・・・というか、3月21日というのは、この企画の初日ですよね・・・?!
おそらく周囲の関係者はヒヤヒヤだったのかな~と想像しますが、ハートネットTVの時同様、沖縄の私宅監置が分かりやすくまとめられていて、よく理解が出来ました。今回の20分のショートドキュメンタリーは「序章」だそうで、今年の10月には長編を完成予定だそうです。ぜひ長編も観たいと思います!!
上映前の、中橋真紀人さん(イメージ・サテライト代表)の挨拶。
約1時間の休憩を挟んで、18時からは中橋さんがプロデューサーをつとめた『夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年』が上映されました。
映画のチラシ
映画のホームページはこちら。各地の上映スケジュールもホームページより確認できます。都内では、直近ではアートギャラリー884(映画上映は3月26日まで)の他、4月6日~12日まで下高井戸シネマでも上映があります。興味のある方は、是非観ていただきたい!
ところで、会場の後方には、今回の企画展にちなんだ映画のDVDが並べられていました。
かなりヒットしたそうなので、ご存知の方も多いかもしれませんが、私が興味を持った映画はこちら。『人生、ここにあり!』というイタリアの映画です。
DVDジャケットの裏面に書かれたあらすじによれば:
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舞台は1983年のイタリア・ミラノ。型破りな活動で労働組合を追出された熱血男・ネッロが行き着いた先は、精神病院の閉鎖によって社会に出ることになった元患者たちの協同組合だった。オカド違いな組合の運営を任されたネッロは、精神病の知識が全くないにも関わらず、持ち前の熱血ぶりを発揮。個性が強すぎて社会に馴染めない元患者たちに、”シゴトでオカネを稼ぐ”ことを持ちかける。すぐに手が出るキレやすい男、彼氏が100人いるという妄想を持つ女、UFOが年金を支給してくれていると信じる男・・・そんな一筋縄ではいかない面々とネッロは、ドタバタなトラブルを巻き起こしながら、無謀ともいえる事業に突っ走っていくが・・・
世界で初めてイタリアで広まった夢のような挑戦ー精神病院の廃止。そこで生まれた実話に、世界中が笑って泣いた!
1978年、イタリアでは、バザーリア法の制定により、次々に精神病院が閉鎖。それまで病院に閉じ込められていた患者たちを外に出し、一般社会で暮らせるような地域づくりに挑戦した。この物語は、そんな時代に起こった、ある施設の夢のような実話を基にした作品である。
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・・・私宅監置の展示と映画を観た後ではなおさら、”夢のよう”に思えてなりませんが、実話に基づいているとは・・・!
こちらの映画も、観てみたいなぁ(^^)!
ギャラリー884での企画展は、3月27日まで(映画『夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年』は26日まで・事前予約制)。ぜひ多くの方に観てほしい企画です。
以上、企画展のレポートでした。