昨年度「プロ市民」人権賞をいただいたことをきっかけに、8月27日に「ふくおか自由学校」の講座で『さようならUR』を、9月3日には3年ぶりの開催となる「福岡アジア映画祭」にて『インド日記』を上映していただきました!
ふくおか自由学校の上映については、スタッフのいのうえしんぢさんが、詳しい上映レポートを書いていただいています。会場での参加者アンケートも掲載されています。ぜひこちらをご覧ください。
私は、いのうえさんのレポートの以下のくだりが、私の映画と、その先にある日本社会について言い当てているように感じました:
そんな「善人」な人たちが集まって「正義」の名の下に、圧倒的な人数でひとつの方向を向いて行動する時。仕組まれた「正義」がいつの間にか、どんどん肥大化していって、結果的に、それは誰かへの刃になってしまう。
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質疑応答では、福岡の住環境についても、参加された方より教えていただきました。3月に福岡へ行った際にも感じましたが、福岡の中心地はマンションやビルがとても多いです。そのことも影響するのか、福岡の住宅問題は民間ディベロッパーによるものが圧倒的に多く、反対すればスラップ訴訟(嫌がらせのための訴訟)も起こされるとのことでした。
そのほか、長崎県の石木ダムの建設反対運動に参加しているという方からは、現地の反対運動に参加する際、こちらも嫌がらせや監視のために、参加者が写真を撮られたりするとのことでした。
私は石木ダムについて知らなかったのですが、上映の後にネットで調べたら、なんと計画が持ち上がったのは半世紀も前のこと(1962年)!!
石木ダムの問題について、アウトドアメーカー「パタゴニア」のホームページに詳細が載っています⇒「ダムネーション:石木ダム建設阻止活動をご支援ください」。(現地住民を中心とした反対運動の詳細については、「石木川まもり隊」ホームページをご覧ください)。
企画およびご参加くださった方々、どうもありがとうございました!
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さて、翌週の9月3日は、福岡アジア映画祭にて『インド日記』を上映していただきました。同映画祭では、これまで『ブライアンと仲間たち』(2009年)、『さようならUR』(2011年)、『FOUR YEARS ON(あれから4年)』(2015年)と上映していただいており、『インド日記』は4作目の上映となります!
こちらも、上映の後にオンラインで質疑応答に参加しました。『インド日記』のメインは、インドの女性団体「SEWA」です。質疑応答でも、SEWAに関する質問が多く寄せられました。
例えば…
・SEWAの銀行は、(バングラデシュの)グラミン銀行と同じようなものか?
・映画に出てくる「インフォーマル・ワーカー」とは何か?
・インドの女性問題・労働事情を知りたいと思ったが、それらについて書かれた書籍が少ない。
などの質問をいただきました。
インドの女性問題、労働事情については、実は福岡の筑紫女学園大学の先生だった喜多村百合さんが、日本におけるSEWA研究の第一人者として知られています。2004年に出版された「インドの発展とジェンダー 女性NGOによる開発のパラダイム転換」という著書では、SEWAのメンバーたちへの詳細な聞き取り調査の結果を紹介されました。
また、「インフォーマル・ワーカー」については、日本語訳を考えた時の苦労についてお話ししました。
インフォーマル(informal)は、直訳すれば「非正規」「非公式」などと訳されます。だとすれば、「インフォーマル・ワーカー」は「非正規労働者」と訳されるように思われるかもしれません。
しかし、インドのほか、いわゆる”途上国”と呼ばれる国々で使われる「インフォーマル・ワーカー」というのは、日本の「非正規労働者」(=正社員同様の待遇が受けられない労働者)とはかなり違うのです。
日本で、「インフォーマル・ワーカー」的な労働者を挙げるとしたら、かつての山谷や釜ヶ崎などの日雇い労働者や、現在ならば不法就労で危険な仕事に従事する外国人労働者などが、イメージ的に近いと思います。
まともな契約書もなく、防具もなく危険な業務に従事させられ、事故が起きても何の補償もない、労働の対価もきちんと支払われない…といったような、圧倒的に不利な条件で労働せざるを得ない状況にある人たちのことです。
日本語の「非正規労働者」という訳語では、それらのニュアンスが伝わらないので、私は映画の中では「インフォーマル・ワーカー」と単にカタカナで表記するにとどめ、映画で最初にこの言葉が登場する際に、以下のようにナレーションで補足しました:
1972年、アーメダバードで自営業の女性たちによる組合「SEWA」が設立された。ふつう、「自営業」としてイメージするのは、事業の経営者かもしれないが、SEWAは「日雇い」など、雇用が不安定で、社会保障もなく、搾取されやすい職業、いわゆる「インフォーマル・セクター」に属する労働形態を「自営業」と呼んでいる。
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上記ナレーション原稿に、女性労働者たちが、動きにくいサリーを身にまとった状態で土木工事に従事していたり、灼熱の炎天下でゴザの上に野菜を並べて売る様子などの映像を組み合わせ、彼女らの言う「インフォーマル・ワーカー」が、どんなものかをイメージしやすい様にしました(それでも、素早く切り替わる映像の中から、私の意図を読み取るのは難しいかもしれませんが💦!)
上映後の質疑応答で、訳語についての補足説明の機会を得られたのはありがたかったですが、本来ならば、こういった表現(分かりにくい概念)に対しては、映像の中で伝わるようにもっと工夫・改善すべきだったと思います。
SEWA以外の質問では、インドの映画祭についての質問も頂きました。
福岡映画祭スタッフの皆さま&ご参加くださった皆さま、どうもありがとうございました!
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さて、今回の上映のきっかけとなった「プロ市民」人権賞ですが、現在、2022年度・第5回のエントリーを受付中だそうです! 締め切りは9月20日まで。詳細はこちらをご覧ください♬
以上、福岡連続上映のレポートでした!