先日9月11日、「経産省前テントひろば」にて、テント設置から丸10周年の記念集会が開催されました。
集会の案内チラシ
当日は、約250人ほどの参加者で、テント(座り込み)メンバーのほか、各地で脱原発に取り組む方々からのスピーチがありました。
会場には、この10年の間に亡くなった、テントの仲間たちの写真が飾られていました。
その他の集会の写真は、Facebookの「反原発美術館」ページよりご覧いただけます。
https://www.facebook.com/antinuketent2015/posts/1508238512860651
(Facebookのアカウントを持っていない場合、ページにアクセスできない可能性があります)
この、丸10年のイベントに合わせ、私が10年前に初めてテントを訪問し、撮影した時の映像(約8分)を公開しました。2011年11月19日、テント設置71日目の映像です。今はなき、正清太一さんのインタビューも。ぜひご覧ください。
9月11日の集会では、菅直人さん、黒田節子さん、武藤類子さん、落合恵子さんなど、これまでテントに関わり、応援してくださった方々のスピーチがありました。
その中から、福島原発事故から10年たち、今福島でどんなことが起きているのかについて話された、武藤類子さんのお話(約16分)を抜粋してご紹介したいと思います。
以下は、武藤さんがお話しされた資料を、後日送っていただいたものです。映像と合わせてごらんください:
資料「原発事故から10年 福島で起きていること」武藤類子
1、原発サイトでは
福島第一原発の事故を起こした原子炉の中では何が起きたのか、何が起こり続けているのか今も未解明だ。東京電力は30年~40年という廃炉のロードマップを発表しているが、廃炉の最終形態はまだ何も決まってはいない。収束作業員には、これからも過酷な被曝労働が続く。
〇10年後に明らかにされた事実
・1~3号機 シールドプラグのデブリ並みの高線量。/1、2号機のベント用バルブが根元部分で切断された設計。/2021年2月東日本大震10年後の震災余震による、1、3号機の水位低下。/3号機の壊れた地震計の放置。
〇被ばく労働と事故
・現在、収束作業に当たる作業員は一日約4000人。/死亡事故 21件 怪我、熱中症など多数。
〇一般人の構内見学
・見学台の放射線量50~100μSv/h。/高校生の見学も実施。
〇東電廃炉ロードマップの欺瞞
・廃炉の最終形が決まっていない。/廃炉のための法律が作られていない。/現場の放射線量が減衰する期間が必要。
2、避難者の問題
2012年から徐々に始まった避難解除は、年間に受ける放射線量が20ミリシーベルト以下という理不尽な基準で行われている。避難解除とともに賠償や住宅支援が打ち切られ、大変な自助努力で生活が再建できた人もいるが、望まぬ帰還をした人や経済的、精神的に追い詰められ困窮している避難者もいる。
〇福島県が把握しようとしない避難者の生活の実態
〇公営住宅の追い出し問題
・裁判に訴えられる。/2倍家賃請求問題。/親族への通知と訪問。
〇国内避難民として認識されるべき。
3、汚染水について
原発サイト内に貯留されたALPS処理汚染水は125万トン。2021年4月、政府はこの汚染水を海洋放出する方針を強引に決定したが、福島県漁連をはじめ農林業、観光業なども断固反対の姿勢。福島県の自治体議会の7割が反対や慎重に議論の意見書を出している。海は世界のあらゆる生命の共有財産、これ以上環境の汚染を広げてはいけない。
〇政府の海洋放出方針決定
・合意プロセスの問題。/東電・国と漁連との約束の反古。/県内自治体議会の反対、国内外からの署名や声明、パブリックコメント、署名などを全く反映していない。
〇汚染水の中身
・トリチウム他の放射性物質が除去しきれていない。/放出する放射性核種の総量が発表されていない。
〇経産省、環境省、東電などの説明や宣伝の在り方
・理解と押し付けは違う。/一般市民や学校への出前講座でのエネ庁の説明の在り方/宣伝動画やリーフレットの作り方
〇凍土壁の失敗を認めるべき
4、汚染土について
除染によって集められた、汚染した土は中間貯蔵施設への搬入が続いているが、2045年までに福島県外に搬出することが、法律で決まっている。環境省は少しでも量を減らすために、汚染された土を再生資材として再利用しようとしている。
〇再生資材としての再利用計画
・飯舘村農地への再利用。/南相馬市の盛り土実証事業
〇環境省の説明会、大学や若者向け
・対話フォーラム「福島 この先の環境へ」。/小泉大臣の鉢植え
5、木質バイオマス発電所について
福島県の再生エネルギー事業の一環として、複数の木質バイオマス発電所が建設されている。森林の除染も兼ねると謳われているが、汚染された木を燃やして発電することの危険はないのだろうか。
〇木質バイオマス発電所の問題点
・カーボンニュートラルにならない木質バイオマス発電。/森林除染も兼ねる?/排気とともに拡散する飛灰、濃縮された主灰の行方。/受注した会社の株主は東電など原子力関連企業。/田村市大越町の市民が訴えた裁判。
6、健康被害
事故当時18歳以下の子どもたちを対象とした県民健康調査甲状腺検査は、現在までにがんとがんの疑いが260名(良性1名を含む)だが、評価部会では「被ばくの影響は考えにくい」としている。県民健康調査の目的には「原発事故を踏まえ福島の子どもたちの健康を長期的に見守る」とある。
〇小児甲状腺がん
・県民県健康調査以外27人(2017年までのがん登録により)がようやく発表されたが、正確な数は把握されていない。/根強い検査縮小論がある。/声を出し始めた罹患当事者たち
〇甲状腺がん以外の健康被害
・全く調査されていない他の疾患。
〇「黒い雨裁判」との連携
・認められない内部被ばく
〇精神的な被害
・鬱、PTSDの実情。/福島県の災害関連死2313人、自死118人、災害復興住宅での孤独死155人(自死を含む)
7、若者や子どもたちをめぐる状況
除染が終了しても、多くの地域は事故前の放射線量には戻っていない。事故によって拡散された放射性物質が環境にあり続ける中で、子どもたちは成長していかざるを得ない。大人は放射能への正確な知識と情報を伝えるべきだが、放射能の危険や事故による被害の実態、事故の責任など最も必要とされる情報が抜け落ちている。
〇伝承施設
・東日本大震災・原発災害伝承館。/コミュタン福島。
〇放射線副読本の後退
〇学生に向けた講座、イベント、対話フォーラム、ぐぐるプロジェクトなど。
〇国際教育研究拠点 アメリカハンフォードをモデルとする拠点作り。
〇若者の被災地域への移住事業
8、放射線防護の意識と対策の後退
あらゆる問題を通して、放射線防護の基準や対策、住民の意識を緩める方向に向いているように思われる。それは原子力産業の復活と復権を狙っているようにも感じる。
〇宣伝により空気を作り、住民の意識を操作する
・各省庁、福島県、自治体が発注。/電通による巧妙なメディア操作。/心理に入り込むキャッチコピー
〇保養
・公的な保養は未だない。/市民による保養の経済的、人的困難
〇被曝者援護法と手帳
・多くの人が必要を感じながらも運動が起こせていない。/子ども・被災者支援法の実現への再度の取り組み
9、イノベーション・コースト構想について
福島県復興加速化計画の一環にあるこの事業には、莫大な復興予算が投じられている。福島県浜通りには、事故前にはなかった多くの最先端技術を開発する大規模な施設が建設されている。それらには原発関連の企業や研究施設もあり、再びそれらの支配下に置かれるのではないかと危惧される。被害者が望む復興とはどこかかけ離れているように思われる。
〇被害者が望む復興との乖離。/復興予算の使われ方。/浜通りを中心に、どんどんできる大施設と今後の維持。/原子力関連企業の台頭と支配。/ハンフォードをモデルとする国際教育研究拠点
10、責任追及
二度と同じ悲劇が起きないように、同じ困難に遭う人がいないように原発事故が起きた原因、背景などをもっと突き詰め、これからの環境保護に対する人の意識や社会の変革を目指す必要がある。気候変動やコロナなどを生き抜くためにも。
〇裁判
・損害賠償裁判。/刑事裁判。/行政裁判。/差し止め裁判
〇政府、県との交渉
〇東電との交渉
=====
集会の全記録は、以下よりご覧いただけます。
▶前半(84分)
▶後半(86分)
なお、集会の最後で、講談師の神田香織さんが来られる途中に交通事故に遭われ、参加できなかった…というアナウンスがありました。その時はまさか、報道されていた大事故だとは思いもよりませんでした。タクシー運転手の山本斉さん、そして神田さんとご一緒されていた小林久美子さんが亡くなるという事態に…。ただただご冥福をお祈りするばかりです。
神田香織さんFacebookより
https://www.facebook.com/kaori.kanda.94/posts/6289341814439577
以上、丸10年「脱原発テントひろば」大集会のレポートでした。