約3週間の裏庭整備中、竹伐採の様子を時々ネットに掲載していたら、「竹を活用したら良いのに」という意見を何度か頂いた。私自身は、「裏庭の整備」が作業の主目的だったので、表庭に運び込んだ竹(竿)は、可燃ごみの長さに切り、廃棄するつもりでいた。
竹は、切るのは比較的簡単だが、切った後の処理作業にかなり時間がかかる。その竹をさらに何かに活用するとなると、竹の加工作業だけで手一杯になってしまう。そこまでして手に入れたい竹の加工品はないし、田舎暮らしは、他にもやることが山ほどあるのだ。暖かくなれば草取りは日課となり、畑仕事も本格シーズンに突入する。そして何より重要なのは、映画の編集作業を、もうこれ以上先延ばしにするべきではない、ということだ。ゆえに、いくら他人から「もったいない」と言われようと、竹を何かに活用することは全く考えていなかった。
ところが、竹の活用についていくつかコメントをいただいた中に、福島の保護猫のシェルターを名古屋で運営する、井上めぐみさんの意見があった。井上さんはシェルターの消臭のため、竹炭を業者から購入しているという。せっかく竹が沢山あるなら、それを竹炭にできないか?という提案だった。
実際に竹炭づくりをやるかどうかは別にして、竹炭がどのように作られるのか?という興味はあった。全国で厄介者扱いされる竹を、逆に「活用しよう」と取り組んでいる人たちが、きっといるに違いない。ネットで調べると、本格的な炭焼き小屋は少なくなっているものの、ドラム缶や一斗缶を使った、簡易の竹炭づくりを行う個人や団体は、全国に点在しているようだった。竹炭づくりの原理・工程はごくシンプルで、個人でもできるのではないか?と思えた。
しかし、そもそも、ドラム缶や一斗缶はどこで手に入るのか?という疑問がまずある。竹炭づくりに取り組む人たちは、材料の入手が難しくなっていることを嘆いていた。昔は、ドラム缶はガソリンスタンドで、一斗缶は個人商店(豆腐屋など)にお願いすれば、ほぼ無償で手に入ったそうである。
しかし、近年は廃棄物処理の管理が徹底されているためか、ガソリンスタンドでは譲ってくれず、個人商店も減少の一途をたどっているので、一斗缶さえも手に入りにくい。「新品」のドラム缶を、ネットで7,000円で購入したと書いている人もいた。正直、(そこまでして?)と思ってしまう。竹炭作りの場合、材料は一度そろえたら終わりではなく、窯の中は600度以上の高温となるため、ドラム缶は4~5回使えば、ボロボロになってしまうのだから。
竹炭づくりについて調べるうち、ふと、町内で知り合ったある人のことを思い出した。かなり広い敷地に暮らしているそうなので、竹にも悩まされているかもしれない。どう対処しているのだろうか?
電話をかけると、「竹の問題に15年間取り組んでいる」、「竹炭を作っている」というではないか!! 2~3月にかけては、毎週竹炭を作っているというので、早速見学&お手伝いをさせてもらうことになった。こんな身近に、竹炭のお師匠さんがいるとはびっくりだ!
スマホの地図を片手に、自転車でお師匠さんの家に向かう。同じ町内とはいえ、自転車で30分ほどかかる。スマホの地図機能がおかしいのか、舗装された道路ではなく、でこぼこのあぜ道ばかりが続く。自転車がパンクしないか不安になりながら、お師匠さんの家に急いだ。
お師匠さんの家周辺は、私の近所よりもさらに田舎だ。途中、空き家と思われる家がいくつもあった。下の写真の空き家は、家の中から「笹」が飛び出している。家を放置するとこんな風に荒れるのかと、恐ろしくなった。
無事、集合時間の9時に間に合って到着した。初めて訪ねる、お師匠さんの炭焼き場。その光景は、「昭和」というより、「高度成長期以前」の日本か?と錯覚するような景色だった。
腰が90度に曲がり、モンペを着たおばあさんの姿も。
竹炭ができるまでの工程は、大きく分けて3つ(3日)。1日目は、ドラム缶の中に竹を詰め込む。2日目は火入れ。3日目に取り出し。今日は、ドラム缶の中に竹を詰め込む作業を行うとのこと。
お師匠さんは、ドラム缶2基体制で炭焼きを行っている。ドラム缶の半分以上を土中に埋め、上にも分厚く土をかぶせてある。炭焼きは高温であればあるほど良いので、保温のために土をかけるのだ。「商品」として市場に出回っている高品質な竹炭は、1,000度以上で焼かれるが、自作のドラム缶窯では、せいぜい600度ぐらいだという。
お師匠さんの炭焼き窯は、ドラム缶(本体)、ドラム缶の蓋、一斗缶、煙突で構成されている。ネット民同様、材料を無料で調達するのは難しくなっており、ドラム缶は格安のお店でも1個3,000円くらいする。一斗缶は、これまでは豆腐屋でもらえたが、店主の高齢化で閉店するので、今後はどこから調達するか、頭を悩ませているそうだ。煙突部分はホームセンターで購入。
お師匠さんは、現在74歳。定年を迎えるころ、竹藪の問題に取り組もうと考え、同時に竹炭づくりにも興味を持った。竹と竹炭に関する本を読み、ワークショップに何度か参加し、達人と呼ばれる人たちの炭焼き窯を訪ね・・・と、試行錯誤を続けてきた。これまでに、お師匠さんのもとに「弟子入り」したのは6人で、私は7人目となる。これまで彼に教わった人は誰も、その後炭焼きをしていない(弟子入り先としてどうなの?という疑問は、とりあえず無視)。
私は2月の半ば~3月の初めにかけて竹の伐採を行ったが、竹の一般的な年間作業カレンダーでは、伐採は12月から始め、「立春」までに終えるのが基本とのことだ。12月から行う理由は、竹が水を吸い上げなくなり、伐採しやすくなるから。竹の水分が少ないと、伐採後の保管時に、害虫が付きづらいという利点もある。
伐採した竹は、ドラム缶窯に入れるサイズ(82センチの長さ)に切りそろえ、1~2か月乾燥させた後、2~3月にかけて炭焼きを行う。炭焼きは、年間を通じて行える作業ではあるが、火入れの作業があるので、暑い時期はやってられない。また、4月~5月には孟宗竹、6月以降は真竹のタケノコシーズンとなるので、そのかんはタケノコ掘りが忙しくなる。ゆえに、炭焼きを行うのは2~3月となるのだ。
伐採する竹の数は、毎年100本前後と聞き、意外に少ないように感じた。なぜなら、私の狭い裏庭だけでも、今年、80本の竹を伐採したのだから。しかし、お師匠さんの竹林は、毎年、継続的に手入れをされたもの。竹同士は十分な間隔を保ち、配置も考えながら、どのタケノコを収穫し、何年目の竹を伐採するか計算する。だから、敷地は広くとも、伐採の本数はその程度なのだ。
先日のブログで、竹を活用する術がない場合、タケノコを掘って食べるのが一番の対策と書いた。お師匠さんは、竹炭以外に竹を使っていないので、竹林の総量をタケノコ堀りでコントロールしている。「年間、どれだけのタケノコを掘ると思うか?」と聞かれたので、「300個ぐらい?」と答えたら、なんと1,000個も掘るそうだ! せ、せんこ・・・! 竹の伐採よりよっぽど大変そう・・・(> <)
そのため、毎年、タケノコのシーズンになると、早朝5時から家族総出でタケノコを掘る。それを「朝採りタケノコ」として、朝9時から市価の2割引きほどで販売する。竹炭はなかなか売れないが、タケノコは毎年心待ちにしているファンがいて、地元の隠れた人気商品なのだという。1,000個も売り上げれば立派な収入源だが、毎年「タケノコ泥棒」(動物ではなく人間)にも悩まされているそうだ。
お師匠さんの竹林
お師匠さんの生業(現在はアルバイト)は、地元の進学塾での英語講師だ。時々翻訳もする。この地で生まれ育ったわけではないが、縁あってこの町に移り住み、この町に人一倍愛着を持ち、ゆえに相当な危機感も持ち、これまでに町議選に3回立候補した。残念ながら、3回とも落選したそうだが、「300票獲得した!」というのが自慢だ。確かに、何十年住んでも「よそ者」扱いされる保守的な町で、お師匠さんのような変わり者(失礼!)に投票する人が300人もいるというのは、ある意味、希望が持てる数字なのかもしれない。
竹炭づくりを始める前に、お師匠さんの作った竹炭を見せていただいた。
私は、竹炭を手渡されて絶句した。それは、私がかつて見た「竹炭」とは、かけ離れたものだったから。高校生の頃、茶道を習っていた私は、お茶の先生の居間に置いてあった飾り物の竹炭を見て、子供ながらに、その芸術品さながらの美しさに感動したのだった。表面はなめらかで厚みがあり、上品な光沢を持ち、固く、炭同士が触れると軽い金属音がする・・・、まさに「匠の一品」だった。
しかし、目の前に置かれた竹炭は、表面がでこぼこで、細かな屑がまとわりつき、断面はヒビ割れていた。お世辞にも、「逸品」とはいえないものだった。自家用で使うには十分だろうが、誰かにあげたり、お金を出して買うとなると、たぶん(いや、絶対)「ない」だろう。
まじめで研究熱心なお師匠さんが、15年かけて取り組んだ「作品」がこれなんだぁ・・・。
私は、竹炭づくりを始める前から既に、竹炭の奥深さと素人の限界を見せつけられた気分だった。昔見た、あの輝く鋼のような竹炭は、第一級の職人の技だったのだ。昔は、村に一人は「炭焼き名人」がいたという。そういう匠の技が日本各地で途絶えているとは、惜しすぎる。
お師匠さんの竹炭を前に、私はあっさりと竹炭づくりをあきらめてしまった。でもむしろ、迷いが晴れたような、すっきりとした心持ちだった。「自分がやるため」に学ぶのではなく、この小さな町を愛し奮闘する、風変わりなお師匠さんの「作業手伝い」をしようと決めたのだ。そう心を切り替えて、竹炭作りの一連の作業に加わった。
具体的な竹炭作りの作業工程は、次回以降のブログ記事で紹介する。
※追記:続き(「竹炭づくり(2)」)はこちら。